2015.09.28更新

本日は、私が過去にとあるラジオ番組での法律コーナーの原稿を作成したものをご紹介いたします。賃貸経営されている家主さんはご参考になさって下さいね。

お題「私は賃貸アパート経営で生計を立てているのですが、半年ほど前に入居したAさん夫婦は、とても態度が悪くて困っています。

 夫婦2人で子どもはいないのですが、隣近所には挨拶はしないし、しょっちゅう大きな声で夫婦喧嘩をして、近所迷惑なのです。

 別の入居者から苦情が来るので注意しに行ったところ、「それほど大きな声は出していない。」「苦情を言うほうがおかしい」と言い立てて、一切自分たちの非を認めようとしないのです。

 それどころか、大家の私に向かって「良い身分だな」とか「少しは汗水たらして働け」などと暴言を吐くのです。

 「出て行ってほしい」というと、「家賃はちゃんと払っているし、何も悪いことはしていない。よほどの事情でもない限り、オレたちを追い出すことはできない。」と強気なことを口走ります。

 私はなによりもご近所がよく思っていないことに責任を感じますし、風紀を乱されるのがとても嫌なのです。

 そこで伺いたいのですが、Aさん夫婦に出ていってもらうにはどうすればいいのでしょうか?」

回答.Aさんの問題行動の程度があまりにも常識はずれであって、誰が見ても、これ以上アパートの貸し借りを続けていくことがもはや困難だと考えられる程度に達していれば、出ていってもらうことができます。

≪解説≫

 あなたとAさんとの間には、アパートの賃貸借契約が結ばれていますので、今回のご相談は、賃貸人であるあなたの側からAさんとの賃貸借契約を一方的に解除し、出て行けと命じることができるかという問題となります。

 そして、賃貸人と賃借人の関係というのは、お互いの長年にわたる信頼関係のうえに成り立っているものです。そこで、賃貸借契約を一方的に解除できるためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されていて、これ以上貸し借りの関係を続けていくことが不可能であると判断されることが必要です。

 今回の相談のケースで「信頼関係を破壊する程度の重大な契約違反」があるかは、①夫婦喧嘩による大声や物音の大きさや回数、②同じ建物の入居者からの苦情の内容や回数、③あなたへの暴言についてはその内容や侮辱の程度の激しさ、などさまざまな事情を考慮した上、それが社会生活上認められる限度を超えた生活妨害になっているといえるかどうかが判断されることになるでしょう。

 より具体的には、①Aさん夫婦の夫婦喧嘩が日夜を問わず連日繰り広げられ、隣家の壁を蹴飛ばす等、普通の生活では生じないような音が繰り返し聞こえるとか、②Aさんらの怒鳴り声におびえた隣の入居者が退去してしまったとか、③Aさん夫妻の喧嘩や暴言などにより警察に通報する事態が起きている等の事情がいくつもあれば、「信頼関係を破壊する程度の重大な契約違反」が認められるでしょう。

 他の入居者への責任を感じておられる賃貸人のあなたとしては、まずは粘り強くAさん夫婦の問題行動に対して、繰り返して注意を促していくこと、それも例えば郵便で警告書を送ってみるなどすることが第一です。このことは、先に申し上げた「信頼関係が破壊された」という事実を証明することにも役立つかもしれません。

 こうした対応をとっても、なおAさんの行動が治まらない場合や逆にエスカレートする場合には、簡易裁判所での話し合いによる解決のための「調停」という制度を使って、裁判所の調停委員を通じてAさんらと話合いによる解決を図ることや、Aさんに対して賃貸借契約を解除する通知をしたうえで、退去を求める裁判を起こして裁判所の判断を求めるなどの対応をとってゆくことになります。

以上、大阪の弁護士北畑瑞穂のブログでした!

投稿者: みずほ法律事務所

2015.09.26更新

企業の取締役・従業員等が交通事故によって死傷した場合に、企業に生ずる収益減少の損害が発生した場合、これを「企業損害」といいます。

交通事故のご相談を受けていると、時々この「企業損害」が問題となる事例があります。

この企業損害は、従来は認めるべきではないとする考え方が主流でしたが、現在では、条件付きにせよ、企業損害を認める立場が通説となっているようです。

考え方としては、企業のような間接被害者は原則として賠償請求主体として認めないとしながら、被害者と企業との間に経済的同一体の関係が成立するか、または両者の間に、いわゆる財布共通の原則がある場合に、企業損害を認める、というものです。

この企業損害の発生パターンとしては、①代表取締役等経営者の受傷・死亡により営業損害、②従業員の受傷・死亡による営業損害、③経営者・従業員にかかわらずその受傷等により代替費用が発生した場合、などが考えられます。

 最近の判例傾向としては、①につき消極的な結論をとるものが圧倒的多数のようです。このような否定例では、企業規模としては確かに小規模・零細と言ってよいように思われますが、従業員も数名以上おり、業務分担がなされているという店が見受けられます。そうなると、「経済的同一体の関係」、「財布共通」とは言い難いということなのでしょう。

②のタイプでは、損害賠償が認められるのは困難でしょうね。いかに被害を受けた従業員等で企業が成り立っている感があっても、そもそも、経営者でない者と当該企業が「同一体」とは評価できませんし、従業員等の受傷に備えるのが企業としてのあり方だという評価判断が働くからでしょう。

 例えば、東京地判平成2年6月27日判決も、「芸能プロダクションが、有名所属タレントの死亡により、広告宣伝契約およびコンサートの解約による返還金等および出演が決定していた番組等の解除による損害の賠償を求めた事例につき、原告会社は被害者の個人会社でないばかりか、被害者が原告会社の取締役などの機関でもなく、そのうえ被害者と原告会社とは経済的に一体をなす関係にあるものと認められない。」として請求を否定しています。

③のタイプが実際の相談では大多数を占めますが、このタイプについては認めている裁判例が多いです。受傷により代替費用が発生した場合は、その賠償は認められて然るべきですよね。

以上、大阪の弁護士北畑瑞穂のブログでした!

投稿者: みずほ法律事務所

2015.09.25更新

医療事故調査制度について、私は医療機関側の弁護士としてこれまで準備を重ねてきましたのでよく知っていますが、一般の方々で詳細をご存じの方は少ないのではないでしょうか?

医療事故調査制度は、改正医療法の「医療の安全の確保」の章に位置づけられ、医療事故の再発防止により医療の安全を確保することを目的とした制度で、平成27年10月1日から実施されることが予定されています。

今日は、この医療事故調査制度の概要を説明したいと思います。

まず、医療事故調査制度における調査の流れですが、医療機関で死亡・死産事例が発生した場合、当該医療機関が「医療事故」に該当するか否かの判断を行い、「医療事故」に該当すると判断した場合は、医療機関は遺族への説明、医療事故調査・支援センターへの報告、必要な調査の実施、調査結果について遺族への説明及びセンターへの報告を行います。

また、医療機関又は遺族から調査の依頼があったものについて、センターが調査を行い、その結果を医療危難及び遺族への報告を行います。

この「医療事故」とは、①当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、②当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの、をいいます。

この「①医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」とは、診察、検査、治療によって起こった死亡又は死産をいいますが、その他に転倒・転落に関連するもの、誤嚥に関連するもの、患者の身体的拘束、身体抑制に関連するものも含まれうることが特徴的です。

これに対し、施設の火災、地震・落雷等の天災、自殺等による死亡は含まれません。

また、「②死亡又は死産を予期しなかったもの」という要件は、例えば医師が患者等に事前に説明していたり、診療録等へ事前に記載していたりすれば、該当しないことになります。

 なお、この制度において、「医療事故」に該当するかどうかについては、医療機関の管理者が組織として判断するととされており、ご遺族から医療事故調査・支援センターに報告する仕組みではありません。

 この医療事故調査制度、10月1日から開始されますが、最初は医療機関も手探りの部分があろうかと思います。実際にどのように運用されるのか、私も注意深く見守りたいと思います。

投稿者: みずほ法律事務所

2015.09.17更新

私は、大阪弁護士会の広報委員会として、とあるラジオの法律コーナーの原稿を作成することがあります。今日は先日作成した原稿内容をご紹介しますね。

質問

「私はある小さな会社でサラリーマンをしています。

その会社の上司から常々、

「もっと身だしなみをきちんとしろ」と言われて困っています。

「もっと髪の毛を短くしろ」ですとか「ヒゲを剃れ」とか、

細かいことを言ってくるのです。

私自身は、さほど周りの人と変わらないファッションだと

思っているのですが、上司は、

「命令に従わなければ昇格はさせない」とまで言われて、

やる気が失せています。

そこでご相談ですが、このような命令にどう対処したらよい

でしょうか?」

 

回答 

1.人格権と契約関係に基づく制約

  髪の長さや髭の有無など身だしなみを自分の好みにすることは、憲法13条によって保障された人格権の一つであり、原則として本人の自由に委ねられるべ   きものです。

 とはいえ、会社と従業員とは契約関係で結ばれていますので、会社は合理的な理由があれば、従業員の自由を制約できます。

 その制約の合理性の判断の方法ですが、(1)身だしなみに対する制約の目的が正当かどうか(目的の正当性)、次に(2)その目的を達成する上で、制約の手段が合理的かどうか(手段の合理性)、という観点から判断されます。

 もしあなたが営業職や会社窓口担当者など、お客さんと対面する業務をおこなう従業員であれば、身だしなみをきちんとさせることは、お客さんへの安心感や、会社に対する信用を維持するという点で、目的自体については一般的に制約は合理性があるといえます。

 しかし、その目的を達成する上で、どこまで具体的にあなたの身だしなみを制約するか、また、違反に対してどのようなペナルティを与えるかは慎重に判断されることになります。

 特に髪型や髭の制約は、業務時間外にも当然及びますので、無制限の制約することは問題があります。

 入社時に身だしなみに対する具体的な合意がない場合には、お客さんに不快感を与えない程度の髪型・髭であれば、上司の命令に従う必要はないでしょう。また、前記のとおりの許容される程度の身だしなみをしていたのに、それを理由に昇格をさせない、とする上司の命令は違法となる可能性がありますので、その旨上司に強く申し入れるべきでしょう。

 2 参考となる裁判例(ハイヤー運転手口ひげ裁判)

 一つ参考になる裁判例としては、東京地裁昭和55年12月15日(ハイヤー運転手口ひげ裁判)があります。この裁判では、結論として髭を剃る義務はないと判断しています。

 この事案では、規律で定められている「ヒゲの禁止」の内容について、すべての「ヒゲ」を禁止しているのではなく、見ている人が不快感を伴う、「無精ヒゲ」とか「異様、奇異なヒゲ」を禁止しているものと判断し、禁止されている「ヒゲ」の範囲を限定的に解釈しました。

 裁判所は、① 乗務員の規律を規定した「乗務勤務要領」を作成した当時、「ヒゲ」に手入れされた口ひげが含まれると明確に意図していなかったと推認されること、② ハイヤー業界においても、手入れされた口ひげを生やして乗車勤務しないという慣行が定立されているとはいえないこと、③ 取引先からAさんの口ひげについて苦情が出るなど業務上の悪影響があったとは認められないことといった事情を総合的に考慮し、Aさんに対する業務命令には必要性・合理性がないと判断し、禁止される「ヒゲ」の意味を不快感を与えるものに限定しました。

 たとえ業務命令であったしても、それが本当に業務上必要であるのか、その制約が業務と関係するのかを緻密に考えているのが裁判所のスタンスのようです。

投稿者: みずほ法律事務所